おたより ⑧

「遠藤周作と三浦綾子」のブログを読み、思わずメールしました。ここでメールしてよかったのかどうかもわかりませんが。わたしが三浦綾子さんの小説を初めて読んだのは、24歳のとき。「塩狩峠」キリスト信仰をもつ二月前。なんだか、理解できない小説で牧師に「こういうところが、ここが、わからない」と質問したものです。それ以前、わたしは中学1年生のときから、遠藤周作を読んでいました。わたしは、好きになった作家の作品はすべて読みたくなる方で、遠藤周作の小説やエッセイはほとんど読み、新作が出るたびに読みました。ですから、遠藤周作の小説と三浦綾子の小説の違いは、信仰をもつ前と後では、まったく違った感想をもち、また信仰生活を重ね、わたしも晩年をむかえ、またあらたに遠藤周作の小説のすごさに心うたれています。また、三浦綾子の小説のすごさにも読書会に参加することによって毎回気づかされています。先日の祈り会でのわたしのメッセージで「日本人の民族性では神概念がもてない、と言ってる方がいる」と言ったのは、遠藤周作の「沈黙」からです。その小説では、日本のことを「底なしの泥沼」とたしか表現されていました。「沈黙」は日本でも外国でも映画化されていますが、どちらもキリスト信仰のない製作者たちが作った映画でした。映画的には、すごいのですが、わたしは映画「塩狩峠」に数百倍の魅力を感じます。わたしが、教会に行くきっかけになった映画です。映画的には地味な映画ですが。映画的には、と書いたのは「映像表現の豊かさ」という意味です。とりとめなく書いてしまいました。それぐらい、遠藤周作と三浦綾子との対比は、興奮するテーマだからです。とりいそぎ、その興奮をお伝えしました。

 

森下先生へ

   雪虫、森下先生が以前お話ししていらっしゃいましたね。駆け足で冬がくると。ご体調はお変わりないでしょうか。
試作的思索の内容は、私は全く同感です。
   「沈黙の春」「苦海浄土」「わら一本の革命」を読んだ時から、医療や科学の闇に愕然としました。あまりの現実に絶望感に苛まれてしまったことすらあります。
   人間の身体は、もはや土には帰れないそうです。たとえ野垂れ死にしても、抗生物質や化学物質が土壌の微生物のいのちのサイクルを壊してしまうのだそうです。抗癌剤を続けた弟の骨は薬の色が刻まれていました。
   だからこそ、水野源三さんの詩に癒されます。
   森下先生のブログは私にとって、いのちの湧水です。
   恵み深き週末となりますように。感謝と共に。

 

   『果て遠き丘』は、ほんとうに旭川空港が魅力的にあらわされていて、そこが好きな魅力の小説です。ちなみに旭川空港の冬の除雪体制が充実しているのは、冬は地元の農家が空港の除雪をしているからです。野菜農家の彼らは、冬はすることがないので、いい働きになっています。農家の大型機械の運転技術は、素晴らしく、朝早くても平気で、農家の体力、持続力、機動力も素晴らしいもので、いかんなく除雪作業に使われています。わたしも、冬の時期は東京から札幌に移動するのに、羽田-千歳ではなく羽田-旭川の飛行機をわざととって、旭川から用事のある札幌へJRで移動したことがあります。千歳への飛行機便をとっていたら、雪のために着陸できないことが予想されたからです。

 

   まだ誰にも話していませんが、いつかどこかの三浦綾子読書会で語りたいと思っていることを書きます。
 わたしは、三浦綾子さんのお宅に友人とおじゃまして、カレーライスをご夫妻といただいたことがあります。食後のお茶を飲みながらお話しているときです。三浦綾子さんが、とつぜんわたしたち二人に聞きました。
   「ねえ。あなたたち。今ね、わたし『銃口』を書いているんだけど、いま、主人公が捕まって取り調べ受けているの。それで、あなたたちならどうする?もし自分の命が助かりたいと思うなら、大事な人を裏切る?信仰も捨てる?」
 わたしたち二人が、口をつぐんで、どう答えようか迷っていると、光世さんが、こう言いました。
   「綾子、困らせてはいけないよ。もしもの話しなんか、答えられるわけがないじゃないか。」
   「いいえ。違うのよ。困らせたいから聞いたんじゃないわ。わたし、こう真面目な若いクリスチャンが、どのように答えるか知りたかったの。きっと小説の参考になると思って。」
 今なら、あのとき、こう答えれば良かったと思うことがあります。

※写真は旭川市内、嵐山にある野草園のすすき。

 

このブログを書いた人

森下 辰衛
森下 辰衛三浦綾子読書会代表/三浦綾子記念文学館特別研究員
 1962年岡山県生まれ。1992年から2006年3月まで福岡女学院短大および大学で日本の近代文学やキリスト教文学などを講義。2001年より九州各地で三浦綾子読書会を主宰、2011年秋より同代表。
 2006年、家族とともに『氷点』の舞台旭川市神楽に移住し、三浦綾子文学館特別研究員となる。2007年、教授の椅子を捨て大学を退職して以来、研究と共に日本中を駆け回りながら三浦綾子の心を伝える講演、読書会活動を行なっている。
 著書に『「氷点」解凍』(小学館)、『塩狩峠』の続編小説『雪柳』(私家版)、編著監修に『三浦綾子366のことば』『水野源三精選詩集』(いずれも日本基督教団出版局)がある。NHKラジオ深夜便明日への言葉、テレビライフラインなどに出演。