おたより⑮

   ニュースで旭川の大雪の様子を見ながら、森下先生たちを案じながら過ごしております。こちらは春のような陽気で申し訳ない位です。ご体調などお変わりないでしょうか? 
   先日は久しぶりに森下先生のご講演を拝聴させていただき胸がいっぱいになりました。もちろんYouTubeでの拝聴ですが、会場にいるような臨場感を得られました。文明の利器に感謝です。先生のブログが下地となり、光世さんと綾子さんの歩まれた道をリアルに感じられる方が増えているのではないでしょうか。自由に安全にご講演ができる日は間もなくだと感じています。
 先日街を散歩していた折に、たまたま立ち寄った古本屋さんで『獄中メモは問う』と出会いました。さっそく購入し、すぐに松本五郎さんのことが記されているページに目を通しました。18歳当時の自画像に釘づけになりました。あのようなまっすぐで射るような澄んだ瞳を描けるものなのですね。人生はかくも時代に翻弄され、蹂躙されてしまうものなのでしょうか。氷柱がぶら下がる極寒の寄宿舎においても、楽しそうに笑っている学生さんたちの中で、人間らしい人生をまっとうできた方は何人いたのだろうか……と思わずにいられません。ゆえに、「今この瞬間に感謝」という想いを強くするのですが、ホロコーストや古今東西の歴史に記された目を覆いたくなるような人間の残酷さを想う時、逆に「ごめんなさい」という気持ちになります。
   ギリシャ時代の戦勝国は敗戦国に歌うことを禁止して、敗戦国の人々の心を潰したそうです。歌えない、話せない、移動できないことなどが、どれほど人間の存在を否定する行為なのかと思い知らされます。人間の暗い闇に引きずり込まれそうになる時こそ、「道ありき」が真実となるような、そんな気持ちがいたします。  感謝と共に。

 

 

   森下 辰衛 様

   先日は本当にありがとうございました、森下さんとの語らいのひと時は本当に楽しく、また多くの学びを得る事が出来ました。
   三浦文学は総称して「戦後文学」と言える、この事が忘れられません。綾子さんはずっと戦争を背負いながら歩んでおられたのですね。また、前川さんと石戸谷さんの友情が私の思っていた以上に深いものであった事に感動を覚えました。お二人の関係に思いを馳せていたので尚のこと感激したのかもしれません。
   『「氷点」解凍』と『愛のまなざし』も本当にありがとうございます。どちらもとても興味深く読ませて頂いているのですが、特に『「氷点」解凍』は、森下さんの語り口のあまりの面白さに読みながら何度も声を出して笑ってしまいました。文学作品の評論でこんなに面白いものは今まで読んだ事がありません。キリスト教の知識に欠ける私には三浦文学を聖書の記述を寄せて解説して下さる本書が本当にありがたく学びが多かったのです。こんな貴重な御本を頂けましたことに感謝の言葉もありません。

 

 

『雪柳』―ふじ子から天国の永野信夫への手紙― を読んで

   私は今通っている地元の船橋バプテスト教会で三浦綾子さんを知ることができました。私の中では『道ありき』から始まった三浦綾子さんの世界は、人間としての真の心の優しさに満ち溢れたものでした。『塩狩峠』もその一つです。自分の命より大切なものって何だろうと問いかけることができた一冊でした。
   『雪柳』はその『塩狩峠』の続編ですが、これを読んで私の心の中で、神様はやっぱり一人ひとりを大事に守って救ってくださるのだと感じました。永野信夫さんという一人の青年が、心から愛し守りたいと思っていたふじ子さんを残して天に召された時、深い悲しみとやるせない気持ちでいっぱいになりました。これからという時に…。多くの人達を救った一人の青年が残してくれたものは、何十年経っても色あせることのないクリスチャンとしての姿なのだと思います。その後のふじ子さんも、悲しみや苦しみの中でも信夫さんへの多くの思いを『雪柳』で綴っています。読み進めるうちに、悲しい出来事の裏に色々な人達が関わっていて、その中に書かれている真実や言葉の一つ一つに涙が溢れて止まりませんでした。
   神様は乗り越えられない苦難はお与えにならないと聖書にあります。辛くて苦しいときも必ず神様がおそばにいてくださり、その御手によって救われるのだと信じられる一冊となりました。『雪柳』に出逢え、ふじ子さんの人生を知ることができて本当に良かったです。
   『雪柳』を世に出してくださった森下辰衛先生に心から感謝いたします。 

     ※ この冬の創作物

このブログを書いた人

森下 辰衛
森下 辰衛三浦綾子読書会代表/三浦綾子記念文学館特別研究員
 1962年岡山県生まれ。1992年から2006年3月まで福岡女学院短大および大学で日本の近代文学やキリスト教文学などを講義。2001年より九州各地で三浦綾子読書会を主宰、2011年秋より同代表。
 2006年、家族とともに『氷点』の舞台旭川市神楽に移住し、三浦綾子文学館特別研究員となる。2007年、教授の椅子を捨て大学を退職して以来、研究と共に日本中を駆け回りながら三浦綾子の心を伝える講演、読書会活動を行なっている。
 著書に『「氷点」解凍』(小学館)、『塩狩峠』の続編小説『雪柳』(私家版)、編著監修に『三浦綾子366のことば』『水野源三精選詩集』(いずれも日本基督教団出版局)がある。NHKラジオ深夜便明日への言葉、テレビライフラインなどに出演。