2020年12月31日(木) / 最終更新日時 : 2021年1月11日(月) 森下 辰衛 幸福な王子 「幸福な王子」を読む ➃ やがて、雪が降ってきました。その後に霜が降りました。通りは銀でできたようになり、たいそう光り輝いておりました。季節は非情なまでの透明な美しさで、いのちを突き刺すような冷たさを送ってきました。出歩く者は誰も彼も毛皮にくるまっているというのに、裸同然になってゆく二人を包むものはありませんでした。かわいそうな小さなツバメはどんどん寒くなってきました。でも、ツバメは王子の元を離れようとはしませんでした。心から王子のことを愛していたからです。
2020年12月30日(水) / 最終更新日時 : 2021年1月11日(月) 森下 辰衛 幸福な王子 「幸福な王子」を読む ③ つばめには分かっていたのです。「行かなければなりませんが、あなたのことは決して忘れません」などと告げることが裏切りだということも。「宝石を二つ持って帰ってきます」と言うことが裏切りを誤魔化すことであることも。何もかも与え尽くす王子と、エジプトを握ったまま手放そうとしない自分。貧しい人々に与えた分だけ宝石を補完すれば、また与えられるではないですかと言うことが、全く的外れだということも。
2020年12月29日(火) / 最終更新日時 : 2020年12月30日(水) 森下 辰衛 前川正 奇跡がないとしたら ― 前川正とリルケ 12月29日はリルケの命日です。前川正はリルケの代表作である『マルテの手記』と書簡集(こちらはドイツ語で、自分で訳してもいたようです)を愛読していました。前川は、『マルテの手記』の主人公マルテが「淋しくてならぬ、悲しくてならぬ時は」博物館に行ったと書かれているのに倣って、自分も悲しいときには図書館に行くのだと綾子宛の手紙に書いています(『生命に刻まれし愛のかたみ』p.30)。
2020年12月28日(月) / 最終更新日時 : 2023年6月28日(水) 森下 辰衛 小説 李(すもも)―前川秀子から綾子への手紙 抄3 三月末、ぬかるんでいた道の雪も少なくなって、馬糞風が吹き始めるころでした。札幌の大学近くの下宿の住所で、あの子から葉書が来ました。大学病院で診てもらった結果を簡単にしるしたあと、「一年遅れの成人のお祝いのようです」と、一行書かれていました。青いインクのいつもと変わらない文字でした。それから、身の回りの片づけをして旭川に帰って来た日、夕食が終わって、お茶を出すとき、柱時計が八回鳴りました。
2020年12月27日(日) / 最終更新日時 : 2021年3月20日(土) 森下 辰衛 おたより おたより ⑫ 最近いただきましたおたよりの中から、いくつかをご紹介します。抜粋しているものがほとんどです。今年はコロナのおかげで、カメラを持って走り回り、時間に追われながらブログ記事を書くという、初めての生活パターンでしたが、多くの皆さまが読んでくださり励ましてくださって、本当に支えられました。ありがとうございました。どうぞ、よいお年をお迎えください。
2020年12月26日(土) / 最終更新日時 : 2021年1月11日(月) 森下 辰衛 幸福な王子 「幸福な王子」を読む ② 王子はつばめに言いました。「ずっと向こうの」と。王子には「ずっと向こうの」お針子の女の生活がつぶさに見えるのでした。その貧しさと労苦も手の傷と荒れも、トケイソウ(passion flower=受難の花)の刺繍という仕事の詳細も、その傍に臥す病気の息子が泣きながら「オレンジが食べたい」と訴えていることも。王子はつばめに「ずっと向こう」を指さし、共に見ようと招く者でした。人は「ずっと向こうの」存在など見えもしないし見ようとも思わないものです。
2020年12月25日(金) / 最終更新日時 : 2021年1月11日(月) 森下 辰衛 幸福な王子 「幸福な王子」を読む ① この段階の愛は自分に相応しい存在を見つけようとする愛です。自己追求の道具として都合のよい存在を求める獲得欲です。それは自身の自然的性質を出ることのなかった葦と同様、自分の枠を出ない欲求に過ぎないものです。ですから出会いも求愛も別れもありますが涙はありません。獲得の失敗があるだけで、本当の悲しみなどないのです。でも自分は真剣で純粋だったと思うのです。
2020年12月24日(木) / 最終更新日時 : 2020年12月24日(木) 森下 辰衛 試作的思索 飼い葉おけのみどり子 「あなたがたは、布にくるまって飼葉おけに寝ているみどりごを見つけます。それが、あなたがたのためのしるしです。」(新改訳・2017年版)ここで「布にくるまって」と訳されているギリシャ語εσπαργανωμενον(エスパルガノゥメノン)は、「細長い布に包まれた(者を)」の意の受動型の動詞です。手元にあるフランス語訳でもemmaillotéという受動型の語が使われていて、意味として「くるむ」のほかに、「包帯を巻く」、「束縛する」という意味も持っています。
2020年12月19日(土) / 最終更新日時 : 2020年12月19日(土) 森下 辰衛 文学散歩 初冬の峠 ― 塩狩駅存続を願って和寒町へ 和寒町の子どもたちはひと学年が20人ばかり。過疎の町の厳しさも感じましたが、それだけに郷土愛を持ってほしいという願いもひとしお。それで、「どうでしょう、私たち三浦綾子読書会は若い方々に『道ありき』を贈呈しているのですが、和寒町の中学生のみなさんにプレゼントさせていただけないでしょうか?或いは『塩狩峠』でも大丈夫です」と、勝手に話をすすめるのが、代表の悪い得意技。
2020年12月15日(火) / 最終更新日時 : 2020年12月15日(火) 森下 辰衛 友だち 中村哲医師追悼オンラインコンサート動画 12月4日、一年前に亡くなられた中村哲医師の追悼とペシャワール会の支援のためのチャリティーコンサートがオンラインで開催されました。このコンサートには、奈良県立畝傍高校、神戸大学付属中等教育学校、大阪府立八尾高校、大阪府立清水谷高校、武庫川女子大学中・高校と、阪井和夫さん浜田盟子さんが出演されました。