おたより ⑱

   28日の「この土の器をも」のご講演を、感動をもって聴かせて頂きました。いつも先生が綾子さんの小説を、深く掘り下げた解説して下さり、大変恵まれています。私たちは高齢の夫婦ですがこれからも、「真の夫婦になるためには、一生の努力が必要である」という言葉を胸に進んで行きたいと思っています。
   三浦光世さんの神様の御心、御教えに忠実に歩まれた姿・生き様、それに感謝と尊敬をもって学ばれ、従われた綾子さん、お二人の夫婦としての有り様に感動します。
   「謙遜こそ幸せの基である」というお言葉も心に刻まれました。森下先生がいつも分かり易く、情熱をもって語って下さるお蔭で、大きな恵みを受けております。小生は体調不良の家内に代わり主夫業の毎日ですが、色々なご講演や読書会で豊かな導きと励ましと元気を頂いております。有難うございます。
   まだまだコロナ感染や暑さが続きますが、どうかくれぐれもご自愛ください。また画面を通して、先生にお会いできるのを楽しみにしております。

 

   今回の読書会の会報、巻頭の先生のお文章にとても感動いたしました。
   エントロピーについてはちょっと読んだことがありましたが、いのちの定義とこのように関係するとは、考えたこともありませんでした。バラバラにしよう・なろうとする力に抗してつなげようとする力・・・本当に、今まさに必要な力ですね。深い洞察をいただきました。ありがとうございました。
   それと、前号と一緒にお送りいただきました、「ゆっくり読む天の梯子」読書会のご案内、ありがとうございました。すでに第一回目を終えられていますけれども、今からでも参加の申し込みは受け付けていただけますでしょうか?
   実は第二回目も、参加できるかどうかちょっと確かでなく、ためらいつつ恐れ入りつつの打診なのですが・・・。そんな中ではあるのですが、ご案内いただきました時から惹かれるものがあり、思い切って打診!と思ってご連絡させていただきました。ご検討の余地がありましたらよろしくお願いいたします。

 

 

   森下先生
   ご連絡拝受。『天の梯子』楽しみでなりません。
   三浦綾子さんの文学も遠藤周作さんも、私は比べることなどできないほど大好きです。研究的にお二人の文学と関わる事は私にはできないので、研究して下さる方の助けをお借りしながら、理解を深めたり、分かち合いをしたりできるのは、大変に有難い事です。
   『井戸』の氷点カレッジのご解説は気付きの宝庫でした。35年前、婦人科病棟に勤務していたので、実に描写がリアルでした。便と尿と血液と腐った腫瘍の混じる臭いは今でも鼻をつく錯覚を覚えるほどですし、骨盤に転移した痛みというのは現在でも麻酔薬を使用しないと緩和できないのです。お母様の絞るようなセリフに涙が出ました。つきっきりで介護をしていたお母様の辛さは想像もできません。綾子さんの文学では母親のセリフも心に刻まれる事が多いです。毎日の生活が祈りそのものになっているような母たち像に、私の祖母の姿が重なるからかもしれません。 
   話がそれました。読書ノートが少しずつ埋まっていく楽しみも増えました!『病めるときも』の深さや人生への問いなどにつき、学んでいきたいと思います。まさにカレッジですね!『井戸』という題名をつけた綾子さんのセンスにも脱帽です。読み進めていくと、この題名をふと忘れてしまいそうです。『本当の愛との出会い』に触れて欲しい!という綾子さんの思いが、痛いほど伝わってきます。

 

   「三浦綾子と遠藤周作」講演、ありがとうございました。二人の年表に興奮しました。講座を聞いて、さらに興奮。圧倒の1時間でした。2時間あればいいのに、と思いました。わたしは、「沈黙」の原題が「日向の匂い」とは、知りませんでした。このほうが、はるかにこの小説を表していると思いました。が、しかし、出版社は「売る」ことを最優先にするから、「沈黙」にしたのでしょうね。「神は沈黙しているのではない。」とういうのが、小説のラストなのに。「沈黙の春」も売れてましたし。さいごに、その言葉に触れるのが、読者にとっては衝撃なのに。ほんとうに出版社は売る事だけを考えて、変な題をつけたりして困ります。映画でもそうで、「スターウォーズ第三作」は、公開当時は「ジェダイの復讐」でした。「リターン」を「復讐」と邦訳する配給会社にわたしは怒りました。ジェダイが復讐する気持ちを持っては、フォースは出ませんから。リバイバルのときは。「ジェダイの帰還」になっていてひと安心。「士官と軍曹」という映画の原題を、日本の配給会社は「愛と青春の旅立ち」と邦題をつけました。なんとも、陳腐な題ですがヒットしました。映画の内容とまったく関係ない題名。その後、似たような邦題の映画が続いて笑いました。「もののけ姫」もそうで、現代は「アシタカせっ記(伝説)」なのに、鈴木プロデューサーが『それでは売れない。』と「もののけ姫」にしたのは有名な話し。そのため、その映画の中心が、もののけ姫「サン」になってしまい、わたしは、一回見た時は、よく物語に入り込めませんでした。小説や映画のタイトルというのは、ほんとうに大事だと思います。脱線しました。すみません。映画好きがつい小説でなく映画の話しになってしまいます。
 「沈黙」は、カソリック教会では「禁書」とされました。こんな時代に。『読んではいけません。』などと言われると、読まれてしまうもの。わたしは、キリスト信仰を持つ前に中学二年生で読みました。なぜ、これが「禁書」になるのか、さっぱりわかりませんでした。ずっと遠藤周作の小説やエッセイが好きで読み続けました。遠藤周作の小説のラストは、どれも素晴らしい。「沈黙」を読み終えた時、涙が止まらず、30分は胸が苦しくなる感動で、(わたしも、この神父のような生き方がしたい)と思いました。「深い河」のラスト。とてつもない物語の切り取り方。衝撃と感動で、あの女性はそのあと、どんな人生を送っただろうと思ったあと、(おまえは、どうするのか?)と自分に問いかけられた気もして、恐ろしくなったのを覚えています。
 わたしは、24歳でキリスト信仰を持ってから、遠藤周作の小説を読むと、カソリック教会が彼の小説を「読んでは、いけない。」と言うのが、よくわかりました。プロテスタト教会では、あまり遠藤周作の話しをする牧師や信徒には出会ったことがありません。小説を読むよりも聖書を読みなさい、ということなのでしょうね。
 わたしは、小説にたいする非難を聞く時、そもそも「小説」というものがよくわかってないなあ、と若干絶望する気持ちです。あくまでも小説です。主人公が何を語ろうと、何を言おうと、それはその主人公の言葉であって気持ちであって、作者そのものの言葉でもなく、気持ちでもない。どんな物語を書こうと、その世界を肯定してるわけでもない。まして、文章の一節だけを取り出して非難するのは、もう馬鹿馬鹿しくて仕方ありません。筒井康隆の「てんかん事件」を思い出します。
 遠藤周作は、自分の描きたいものを、必死で描いてきた。その極限までに、はりつめた表現にいつも感動していました。
 濱村愛さんが、「じっさいに災害にあわれた方のことを題材にしては、自由に語れない。自分の気持ちを正直に言うと、彼らを傷つけるかもしれないから。しかし小説を題材にすることによって、虚構の人物から学ぶのは人を傷つけない。」と言われたこと、感動しました。
 読書会は、だから楽しいのだと思いました。三浦綾子の登場人物について、語るとき、実は自分のこと、妻のこと、夫のこと、家族のこと、友人のこと、あの人のこと。多くの自分のかかわりのある方と重ね合わせて誰もが発言していたからだと気づきました。
 「小説」は「牧師や神父の説教集」では、ありません。遠藤周作は、エッセイの中で「わたしは、大説を書いているのではない。小説を書いているだけ。」と言っています。
   まず、何よりも遠藤周作の小説は圧倒的に面白い。三浦綾子の小説も同じ。「面白い」といと不謹慎だと思われてほしくないのですが、最高の誉め言葉として言ってます。
 思いつくままに書きました。講演、ありがとうございました。

 

   森下辰衛 先生
   昨日のあや講座第1回目、大変恵まれました。
   第一部で濱村愛先生の取り組みを知り、素晴らしい教育だなと感じました。第二部では、先生が、三浦綾子さんと遠藤周作さんの色々なエピソードを交えながら、種々の視点から二人のクリスチャン作家としての経歴や作品などを対照しながらお話し下さり、大変勉強させて頂きました。
   小生のパソコンの不調で、最後の作品の対比のお話しの部分がお聴きできず、失礼ながら途中退席させて頂きました。
   先生が下さった、お二人の詳しい対照年表は大変有難いです。先生のお話を通して、遠藤周作氏の作品にも興味が湧き、これから少しずつ読んで見たいと思います。
   毎日、変化の少ない生活をしておりますが、読書会の色々な講演会や催しに参加させて頂くことが大きな楽しみとなっています。これからも、どうぞ宜しくお願い致します。
   有難うございました。

このブログを書いた人

森下 辰衛
森下 辰衛三浦綾子読書会代表/三浦綾子記念文学館特別研究員
 1962年岡山県生まれ。1992年から2006年3月まで福岡女学院短大および大学で日本の近代文学やキリスト教文学などを講義。2001年より九州各地で三浦綾子読書会を主宰、2011年秋より同代表。
 2006年、家族とともに『氷点』の舞台旭川市神楽に移住し、三浦綾子文学館特別研究員となる。2007年、教授の椅子を捨て大学を退職して以来、研究と共に日本中を駆け回りながら三浦綾子の心を伝える講演、読書会活動を行なっている。
 著書に『「氷点」解凍』(小学館)、『塩狩峠』の続編小説『雪柳』(私家版)、編著監修に『三浦綾子366のことば』『水野源三精選詩集』(いずれも日本基督教団出版局)がある。NHKラジオ深夜便明日への言葉、テレビライフラインなどに出演。