「わたしをどのようにでもなさってください」― 旭川六条読書会

首都圏は緊迫して来ているようで心配していますが、こちらは非常事態宣言が解かれ、最近は感染者が出ていない旭川です。昨夕は旭川六条教会で読書会が開かれました。参加者7人でした。換気、対人距離、マスク(ない人もいましたが)、飲み物(持参に切り替え)に気をつけました。昨日は北見読書会からお休みを利用して小山田さんも来てくださいました。小山田さんは昼間は文学館に行かれたとのことでしたが、ほぼ貸切状態だったようです。文学館のためにも早い終息を祈らねばと思います。
昨日は『続氷点』下巻「石原」の章を輪読して語り合いましたが、ここはルリ子を殺した佐石土雄の実の娘である相沢順子が陽子の友だちになったことから、八月旭川の辻口家を訪ね、見本林を散歩する物語になっています。最後には美瑛川の川原で、順子の出自を知らない夏枝が、ここで娘が佐石という男に殺されたのだと告げ、それを聴いた順子が蒼白になりながらも自分は佐石の娘であることを告白して土下座し、父に代わり罪を詫びるという重要な部分です。見本林の中に生きる沢山の生き物たちのひしめき、二十年まえのことが幾つも幾つも重なるように思い出される啓造、ルリ子の母である夏枝の手を引いてドイツトーヒの暗い森へと降りてゆく佐石の娘順子、ルリ子の死んだ場所に手向けるために野菊を摘む夏枝と順子。目まいのしそうなゾクゾクする道行きのあと、石原でついに秘密は明かされ、順子は告白して言います。「わたしは佐石土雄の娘です」「わたしをどのようにでもなさってください。わたしは父の罪をつぐないたいと思って生きて来たのですから」その順子の詫びる姿は、陽子と啓造の胸に刺さってゆきます。それはこの辻口家に“罪のつぐない”の光が、ルリ子を殺した犯人の子によって、はじめてもたらされた日でした。
ルリ子の霊が導いたのか?順子の屈託ない明るさが夏枝を素直にさせたのか?うかつなことを言って順子を傷つけてしまうように見える夏枝に、実は母としてルリ子を思う真実な心があったこと、ショックは受けながらも順子は詫びる機会を与えられたことで、むしろ夏枝に感謝したかも知れないということなど、いろんな意見が出て、はじめて気づいた大事なことがたくさんある読書会でした。六条教会牧師の後藤先生も出席くださり、「今日出られて、ここを読めて、本当に良かった」と言っていただけて感謝でした。

このブログを書いた人

森下 辰衛
森下 辰衛三浦綾子読書会代表/三浦綾子記念文学館特別研究員
 1962年岡山県生まれ。1992年から2006年3月まで福岡女学院短大および大学で日本の近代文学やキリスト教文学などを講義。2001年より九州各地で三浦綾子読書会を主宰、2011年秋より同代表。
 2006年、家族とともに『氷点』の舞台旭川市神楽に移住し、三浦綾子文学館特別研究員となる。2007年、教授の椅子を捨て大学を退職して以来、研究と共に日本中を駆け回りながら三浦綾子の心を伝える講演、読書会活動を行なっている。
 著書に『「氷点」解凍』(小学館)、『塩狩峠』の続編小説『雪柳』(私家版)、編著監修に『三浦綾子366のことば』『水野源三精選詩集』(いずれも日本基督教団出版局)がある。NHKラジオ深夜便明日への言葉、テレビライフラインなどに出演。