ソウル日本人教会青年会・三浦綾子読書会スタート ーソウル・レポート⑦

 ソウル日本人教会の副牧師・平島望先生から、うれしいレターが届きましたので、ほぼそのまま紹介します。平島先生は三浦綾子のが書いた伝記小説『ちいろば先生物語』に大きな影響を受けて牧師になった方で、東日本大震災の時には宮城県の塩釜ともしびチャペルの牧師でした。塩釜で数年間三浦綾子読書会を一緒に開いてくださり、その後ソウル日本人教会に赴任されました。

2020年2月23日、新型コロナウイルス(韓国での名称はコロナ19)が韓国国内でも猛威を振るいつつある中、予定より1カ月遅れで、「ソウル日本人教会青年会・三浦綾子読書会」がスタートしました。青年会といってもいつもは私たち夫妻と青年2人の小さな集いですが、月に一度のこの読書会には他教会からも数名の青年が駆けつけてくれることになっています。
   記念すべき第1回の読書会は7名の参加者でした。そのうち2名はたまたま当日初めて当教会を訪れた韓日カップルで、日本人の彼女は教会に来ること自体初めてということでした。
   さて、この読書会で読んでいくのは、三浦綾子さんの最後の小説「銃口」です。参加者の予習のためにあらかじめ決めて予告しておいたその日の箇所を、司会者がまず日本語で少しずつ区切りながら読み、同じ個所を韓国語で参加者一同が読むというスタイルで読み進めていきます。参加者の中には日本語が十分でない者もいるための苦肉の策ではありますが、かえって韓国における読書会ならではのスタイルかもしれないとも思っています。その日の個所を読み終わると、司会者から簡単な発題があり、それについて自由に意見を出し合います。今回は初回ということで、作品の時代背景であり、テーマでもある「昭和という時代」、特にその初期の「自由な発言や思考が許されなかった時代」という点で「もし、そこに自分がいたら?」ということで話し合いました。
   この読書会のスタートのきっかけは、昨年の秋、ソウル日本人教会の礼拝に森下先生が来られたことでした。森下先生はご自分の読書会の働きへの献身について証され、それは「愚かなこと」ではあったけれども、その「愚かさ」を通して働かれた神様の恵みについて語られました。また同時に、ソウルに来られたということで「銃口」の主人公北森竜太の家族と朝鮮人金俊明との関わりの中に、三浦綾子さんが日本の韓国・朝鮮・東アジアに対する侵略と迫害の罪への謝罪があるということを、まさに三浦綾子さんに代わるようにして語られました。
   この2つの話を聞く中で、神様は私の心に2つのことを示してくださいました。1つは教会で三浦綾子読書会を始めること、もう1つは私自身が三浦綾子さんの研究を始めることです。私は2014年の7月に、ソウル日本人教会に「謝罪と和解の宣教師第2号」として着任しました。妻の父である吉田耕三師(ソウル日本人教会主任牧師)が、1981年から続けておられる「韓半島に対する日本の侵略・植民地支配の謝罪と日韓の和解の宣教」を継承し、次世代に伝えていく使命を与えられて、奉仕をしています。その働きの1つとして、三浦綾子さんというクリスチャン作家に見る「日韓の謝罪と和解」について「銃口」を中心に研究し、論文にまとめること、またそれを韓国の次世代を担う若者たちにも伝えていくというビジョンを与えられたのです。「40の手習い」ならぬ「50の手習い」しかも、決して十分ではない韓国語(および英語)の実力で、大学院で学ぶことは、我ながら無謀な冒険としか思えませんでした。しかし神様は森下先生を通して「愚かになれ」と背中を押して下さったと信じて、思い切ってチャレンジした結果、この3月(韓国は3月から新学年が始まります)より、韓国聖書大学大学院の博士課程において学びを始めることになりました。
   読書会と大学院での学び、ソウルにおいてスタートしましたこの2つの小さな働きを神様が豊かに用いて下さるように、皆様にもお祈りいただけましたら幸いです。                                                           ソウル日本人教会 副牧師  平島 望

このブログを書いた人

森下 辰衛
森下 辰衛三浦綾子読書会代表/三浦綾子記念文学館特別研究員
 1962年岡山県生まれ。1992年から2006年3月まで福岡女学院短大および大学で日本の近代文学やキリスト教文学などを講義。2001年より九州各地で三浦綾子読書会を主宰、2011年秋より同代表。
 2006年、家族とともに『氷点』の舞台旭川市神楽に移住し、三浦綾子文学館特別研究員となる。2007年、教授の椅子を捨て大学を退職して以来、研究と共に日本中を駆け回りながら三浦綾子の心を伝える講演、読書会活動を行なっている。
 著書に『「氷点」解凍』(小学館)、『塩狩峠』の続編小説『雪柳』(私家版)、編著監修に『三浦綾子366のことば』『水野源三精選詩集』(いずれも日本基督教団出版局)がある。NHKラジオ深夜便明日への言葉、テレビライフラインなどに出演。