朗読コンサートを終えた葉子さんへの手紙
松原葉子さま
昨日はありがとうございました。本当に素晴らしかったです。30分間の奇跡に私も胸がいっぱいになりました。三年前、筋ジストロフィーの進行によって起きた誤嚥性肺炎から意識不明の重体、いのちは取り留めたものの気管切開して人工呼吸器、そして胃瘻になった葉子さんに、こんな日が来るなんて、誰が思ったでしょう。コンサートからの帰り道の車の中で杉田さん(中村啓子さんの富山時代の同級生で立山の山岳救助隊長を務めた方)が「正直、彼女が金沢の病院に行ったと聞いた時は、もう二度と会えないんだろうと思った」とおっしゃってましたが、本当にみんなそうだったのかも知れません。それが、どうでしょう。葉子さんは、話せるようになり、普通食を食べられるようになり、オルガンを弾けるようになられました。そしてとうとう、啓子さんと朗読コンサートまで出来る日が来るなんて!リハビリテーション病院のホールを埋めた多くの人々。たくさんの同じような苦難にある方やそのご家族に(150人ぐらいおられたでしょう)クリスマスの希望を届けられるなんて!元気で普通に教会に行けてる私にはできないことでした。神様のなさることは計り知れないですね。
朗読コンサートが始まる30分前。午後3時半近くだったと思います。東富山駅から歩いて病院が近くなったころ、雨がやんで西日が射して来て、ちょうど病院の右に虹が出たのです。それを見たときに“神さま、やっぱりすごい!やるじゃん”と思わず叫んでました。今日、ここで、神さまからの希望が届けられる!と既に約束されていることを確信しました。
そして本当にその通りの会になりました。啓子さんの読まれた富弘さんの「クリスマスローズ」や源三さんの「生きる」。本当に素晴らしかったですね。マイクも体調も最良ではなかったかと思いますが、朗読がそのまま祈りでもあるようなその声は清く温かく、いつもにも増して心に届いてくる素晴らしいものでした。何年ぶりかに聴けた葉子さんのオルガンも以前よりずっと奥行きと情感が豊かにされたように感じ、心に入ってきました。「アヴェ・マリア」も「きよしこの夜」もシンプルで深い音色で、クリスマスの恵みを真っ直ぐ一筋に伝えてくれるものでした。「きよしこの夜」では、二年前、金沢の病院のベッドで赤いミニピアノを弾いてくださったのを思い出しました。最初になさった富弘さん、源三さんについてのお話しも堂々と良いお声で良く語れていましたね。感極まった啓子さんの最後の感謝のご挨拶にも感動でした。
何でもすぐに忘れる私も、二度めの昨日は柵を飛び越えず、表玄関から参りました。その代わりホテルで借りたビニール傘を病院に忘れて帰って、フロントで平身低頭しました。クリスマスの祝福を祈りつつ。
2019・12・21 森下辰衛
このブログを書いた人
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1962年岡山県生まれ。1992年から2006年3月まで福岡女学院短大および大学で日本の近代文学やキリスト教文学などを講義。2001年より九州各地で三浦綾子読書会を主宰、2011年秋より同代表。
2006年、家族とともに『氷点』の舞台旭川市神楽に移住し、三浦綾子文学館特別研究員となる。2007年、教授の椅子を捨て大学を退職して以来、研究と共に日本中を駆け回りながら三浦綾子の心を伝える講演、読書会活動を行なっている。
著書に『「氷点」解凍』(小学館)、『塩狩峠』の続編小説『雪柳』(私家版)、編著監修に『三浦綾子366のことば』『水野源三精選詩集』(いずれも日本基督教団出版局)がある。NHKラジオ深夜便明日への言葉、テレビライフラインなどに出演。
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