「土下座のお綾」 ーソウル・レポート③

「ごめんなさい」と「ありがとう」は最強の平和ツール3

私は、三浦綾子のこの心を伝えるためには、突っ立ったままではいけないと思いました。私の仕事は三浦綾子を解説することではなく、三浦綾子の心を伝えることだからです。だから、「それは、こういうことです」と、私も膝をついてお話しました。そして、そのままの姿勢で、三浦綾子が韓国や中国などの国からの来客を自宅に迎えたときのエピソードをお話しました。彼女は作家であり、訪問客はファンです。それでも彼女は必ずその方々の前で、戦時中の自分と日本の罪を土下座して謝罪してからしか、対応しなかったのです。それが三浦綾子でした。申し訳ないと思うとすぐに土下座する妻を、夫の光世さんは「土下座のお綾」と呼びました。そのことをお話ししながら、私も土下座して頭を下げました。私がしているのは形だけです。三浦綾子ならこうするという実演をしているだけです。でも、してみると分かるという世界もあるのです。頭を下げたときに、申し訳なくて涙が噴き出しそうになる、彼女の心が少し分かったのです。そのとき、聴いてくださっていた方々の息づかいが変わるのが分かりました。心を開いて乗り出してくださるのをはっきりと感じました。それが韓国の方々です。でも、それから私は立ち上がりました。ずっと膝をついて話し続けることもできますが、それでは後ろの方の席の方々が私のはげ頭しか見えないからです。

このブログを書いた人

森下 辰衛
森下 辰衛三浦綾子読書会代表/三浦綾子記念文学館特別研究員
 1962年岡山県生まれ。1992年から2006年3月まで福岡女学院短大および大学で日本の近代文学やキリスト教文学などを講義。2001年より九州各地で三浦綾子読書会を主宰、2011年秋より同代表。
 2006年、家族とともに『氷点』の舞台旭川市神楽に移住し、三浦綾子文学館特別研究員となる。2007年、教授の椅子を捨て大学を退職して以来、研究と共に日本中を駆け回りながら三浦綾子の心を伝える講演、読書会活動を行なっている。
 著書に『「氷点」解凍』(小学館)、『塩狩峠』の続編小説『雪柳』(私家版)、編著監修に『三浦綾子366のことば』『水野源三精選詩集』(いずれも日本基督教団出版局)がある。NHKラジオ深夜便明日への言葉、テレビライフラインなどに出演。