すこし春~近況
皆さま、お変わりなくお過ごしでしょうか?長らくブログをお休みしておりますが、春になった旭川で元気にしております。
10日土曜日は、三浦綾子読書会のオンライン委員会の皆さんが多くの労をとって準備して下さった初めてのオンライン講演会でした。これからの読書会の一つの柱にもなるかも知れない活動、その第一回ですから、久しぶりに少し緊張して準備しました。テーマは「『道ありき』①彷徨う心」。『道ありき』については今までも数え切れないくらいの回数語って来ましたが、三回に分けてじっくりとというのは初めてで、しかも沢山の参加申し込みして下さった方々のお名前を見ると、初めての方、常連の読書会メンバー、研究系の方、教会系の方、ほかいろいろな方がおられる!難しくてもいけないけど、「また同じジョークと同じ話!」と思われるのも申し訳ない、何か新しい情報や読解も提供しなければ、など考えて、初級中級上級取り交ぜて、少し盛り過ぎになったかなという感じでしたが、松下光雄さんの素晴らしい司会に助けられ、講演会後も次々と良い質問をしてくださる方がおられて、本当に励まされました。皆さまお一人お一人にご挨拶したり、お顔を拝見したり、声を聴かせていただいたりできないのは残念でしたが、いくつかの教会などでサテライト会場設定をしてくださって、オンライン機材の扱いが未だ得意とは言えない方々も聴いていただけたことは、本当に良かったと、感謝しています。早く皆さんとリアルでお会いして、もう思い切り濃厚接触したい!というのが一番の願いですが、こんな道具が与えられていることに、またお世話くださる方がおられることに感謝です。まだできない方もチャレンジください。また、人に教えてもらったり、相談したり頼んだり、して見てください。このオンライン講演会のDVDがもうすぐできる予定です。
12日は午前中、旭川市内の星光読書会が開かれ、久しぶりに出席くださった方から、『天北原野』の時代の樺太や引き揚げの体験など、貴重なお話をお聴きすることが出来ました。また、ひと月ほど前に足を骨折して最近退院したばかりの方も参加くださり、感謝でした。本当は前週の美瑛での三浦綾子読書会語り手養成講座にも参加される予定だったのに、足の回復が間に合わず、参加なさることが出来ず、みんな残念でだったのです。でも、この方は入院中も知り合いになった若い方に『道ありき』をプレゼントしたり、塩狩駅の存続活動の関係の記事の載った読書会会報を、関心ありそうな方に差し上げたり、という入院生活だったそうです。すごい!
この日は私たちの結婚記念日で、娘がケーキを買って来てくれて、昼食時にささやかな感謝とお祝いをしました。それから、妻が「お父さんの絵の額を買いに行かない?」と提案してくれたので、午後は私の父が半世紀近くも前の私の誕生日に描いてプレゼントしてくれた小さな油絵を額装しに、市内の額屋さんに行きました。 この絵は私の誕生日に目の前で父が描いてくれたもので、0号の小さな白いキャンバスに油絵の具が載ってゆき、見る見る内に薔薇の花瓶が現れてくるのを不思議な手品のように見たことを、思い出しました。半世紀近く、西日本から北海道を一緒に移動し続けたときも、額に入れることなく、それでも仕舞い込むこともなく部屋のどこかに飾り続けていた絵でしたが、昨年秋に父が亡くなってから、やっと額に入れなくちゃと時々つぶやいていたのでした。額屋さんは最初、絵の面積よりずっと面積の大きな金色、銀色の高価な額を出してくれたのですが、妻も後で「ブルース・リーの映画の悪者の豪邸の応接間に飾ってあるような額だったね」 と言うような感じの物だったので、結局その横に置いてあった暗めの地味な額にしました。それに収めてみると、私たちも父も父の絵もホッとした表情になりました。
市内で開いている読書会のひとつは『続氷点』をじっくりゆっくり読む読書会ですが、もう何年もかかって読んできて、とうとう最後の「燃える流氷」の章まで来ました。『続氷点』は10ページ程度の短い章も多いのですが、この章はとても長く、しかも内容が非常に濃いものですので、五回に分けて読むことにしました。先週はその二回目で三井弥吉の手紙とその前後の部分だけを読みました。「燃える流氷」の章は三浦綾子のすべての小説の中から最も豊かな一つの章を選ぶとしたらこれだと思わせる章で、最後の燃える流氷と陽子の回心まで、息もつかせぬ迫力ですが、じっくり読むと、何と多くの掘り起こし読むべきものが隠されていたことかと、驚かされるほどです。あと三回ですが、次回は徹の淋しさのこと、その次はヨハネ福音書8章の姦淫の女と恵子のこと、そして五回目は燃える流氷の場面になります。終了するまでに、一回ずつの読解をまとめて記録しておくべきかと、思っています。先週の会には北見三浦綾子読書会の方も参加くださって、その情熱に励まされ、感謝でした。
20日は半年ぶりに三浦綾子記念文学館での『天北原野』の読書会が開かれました。上巻の「雪解け水」の章を輪読し、その後執筆時の資料のこと(光世さんの兄健悦さんの樺太での流送体験のことなど)を紹介したりしてから、感想を分かち合いました。この章は完治が造材師として野望を持って歩み始める決意をするというのが物語全体の中での位置付けですが、ちょうどすぐ前の「ループ線」の章(半年前に読んで間が開いていたので意識しないと繋がりにくかったのですが)と併せて読むと、三浦綾子さんが自然と人類の営みの関係をどう見ていたかが分かる、とても貴重な部分でもあることが分かります。家庭、夫婦、キリスト教、戦争、教育、国の権力と庶民、などの繰り返し書かれた主要なテーマより、さらにひと回り大きなテーマがここにはあります。『泥流地帯』の泥流の描写とよく似た、内淵川の流送の始まりの迫力ある場面の描写と言葉は、作品最終章のサロベツ原野と利尻岳の夕景に時空を超えた真実を見出す貴乃に繋がっています。自然災害を苦難の問題として捉えた『泥流地帯』を超えるスケールの主題がここにはあるように思えています。
一緒に読む仲間が与えられている幸い、ゆっくり読んでじっくり考える一回一回の読書会という機会が与えられている幸いを、思い感謝しています。このようなコロナ禍の状況下ですが、各地から新しく読書会を始めたいという問い合わせがいくつも来ていることも、うれしいことです。ちょっと春になりました。
このブログを書いた人
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1962年岡山県生まれ。1992年から2006年3月まで福岡女学院短大および大学で日本の近代文学やキリスト教文学などを講義。2001年より九州各地で三浦綾子読書会を主宰、2011年秋より同代表。
2006年、家族とともに『氷点』の舞台旭川市神楽に移住し、三浦綾子文学館特別研究員となる。2007年、教授の椅子を捨て大学を退職して以来、研究と共に日本中を駆け回りながら三浦綾子の心を伝える講演、読書会活動を行なっている。
著書に『「氷点」解凍』(小学館)、『塩狩峠』の続編小説『雪柳』(私家版)、編著監修に『三浦綾子366のことば』『水野源三精選詩集』(いずれも日本基督教団出版局)がある。NHKラジオ深夜便明日への言葉、テレビライフラインなどに出演。
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