「美しい秋を」― 水野源三の詩①
美しい秋 (Ⅱ)
木々の紅葉を見ましたか
百舌の声を聞きましたか
美しい美しい秋を
創られた父なる御神を
喜び讃えていますか
赤いりんごを食べましたか
栗の実を拾いましたか
美しい美しい秋を
創られた父なる御神を
喜び讃えていますか
主の御名を呼びましたか
主の愛に触れましたか
美しい美しい秋を
創られた父なる御神を
喜び讃えていますか
水野源三さんは、1937年長野県埴科郡坂城町に生まれました。9歳の時赤痢に罹りその高熱によって脳性麻痺を起こし、やがて目と耳の機能以外のすべてを失いました。話すことも書くことも出来なくなりましたが、母うめじさんが五十音表を指で指し示したところ、瞬きで応答するようになりました。これが47歳で死去するまでの彼の唯一のコミュニケーション方法になりました。俳句から始めて、四冊の詩集を出し、「瞬きの詩人」と呼ばれるようになりました。
目で、耳で、口で、手で、そして心で感じ取る被造物のその美しさの中に、神さまを見ましたか。その素晴らしさの中に、神さまの愛、神さまの知恵、神さまの力を見ましたか。その神さまに、私もあなたも世界のすべても、生かされ、支えられ、愛されてあることの素晴らしさを、ほんとうに見ましたか。ほんとうに体験しましたか。そしてそれを、心から喜んで歌い出したいほどに感謝していますか。
木々の紅葉、百舌の声、赤いりんご、栗の実。そして、たとえば季節ごとに咲くこんなにも様々な色や形の美しい花々を、神はなぜお創りになったのでしょう。こんなにも多くの美味しいものを、こんなにも愛らしく、清いものを、神はなぜお創りになったのでしょう。秋に実るのはりんごだけでもよかったのに、栗もみかんも柿も創ってくださったのはなぜなのでしょう。それは、神さまが人間や多くの生き物を喜ばせてくださるためだったのではないでしょうか。だから自然は無言のうちにも、私たちに「『私はお前を愛してやまない』という神の言葉を伝えている」(三浦綾子)のです。
そして、神さまは、人間がそれを通して創造主の偉大さを知り、神ご自身の方に心を向けてくれるようにと、五感に快い多くのものをお創り下さったのです。
三連では、「主の御名を呼びましたか/主の愛に触れましたか」と源三さんは問いかけています。美しさにおいても豊かさにおいても、愛においても、どんな被造物よりもすばらしい神さまご自身を直接に呼び求め、自分の手をのばして触れることを、源三さんは勧めています。自ら求めて、神さまに出逢い、神さまと共に生き、神さまと愛し合うことを、何よりも求めてほしいと、神さまご自身が願っておられることを源三さんは知っていたからです。人間は、神をほめ讃えて生きるように創られました。神を愛し、神に愛されて、神と共に生きることを、なによりも喜び、何よりも求めるようにと創られました。
この「美しい秋」には(Ⅰ)に相当する詩があります。
美しい秋 (Ⅰ)
夕映えに咲く
コスモスの花を
見ましたか
月明りに鳴く
鈴虫の声を
聞きましたか
美しい朝を
美しい秋を
創られた主を
知っていますか
折れても曲っても、そのままで花を咲かせる夕映えのコスモスは源三さん自身であったでしょうか。そして、すがしく麗しい月の光に鳴き出さずにはいられない鈴虫も。創造の主を喜び、自分らしく花咲かせ、自分らしく喜び歌う、それが源三さんの秋でした。
この詩を作った1983年の秋、それは源三さんにとって、地上生涯での最後の秋になりました。その最後の秋にも、源三さんは、こうして心をこめて、美しい秋を創られた神をほめ讃え続け、共にほめ讃えようと招き続けていたのです。
この詩は、源三さんの生涯を紹介した映画『瞬きの詩人』の冒頭で、阪井和夫さんが曲をつけて歌っておられるものです。阪井さんは源三さんの声になりたいとの願いで、浜田盟子さんと共に源三さんの詩を歌い続けておられる視覚障害のシンガーソングライターです。大阪は八尾市のとっても“おもろいおっちゃん”ですが、その歌声は心に沁みます。
※写真は源三さんの町坂城のりんご園
このブログを書いた人
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1962年岡山県生まれ。1992年から2006年3月まで福岡女学院短大および大学で日本の近代文学やキリスト教文学などを講義。2001年より九州各地で三浦綾子読書会を主宰、2011年秋より同代表。
2006年、家族とともに『氷点』の舞台旭川市神楽に移住し、三浦綾子文学館特別研究員となる。2007年、教授の椅子を捨て大学を退職して以来、研究と共に日本中を駆け回りながら三浦綾子の心を伝える講演、読書会活動を行なっている。
著書に『「氷点」解凍』(小学館)、『塩狩峠』の続編小説『雪柳』(私家版)、編著監修に『三浦綾子366のことば』『水野源三精選詩集』(いずれも日本基督教団出版局)がある。NHKラジオ深夜便明日への言葉、テレビライフラインなどに出演。
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