2020年11月16日(月) / 最終更新日時 : 2023年6月28日(水) 森下 辰衛 小説 李(すもも)― 前川秀子から綾子への手紙 抄 2 珍しく雪の遅い年でした。胸を病む人のいる家にはありがたいことでしたが、でも季節はいつまでも猶予してはくれません。その日、昭和二十八年の十一月十六日、お昼から旭川に初雪が降り始めました。気温も下がって初雪がそのまま根雪になりそうな気配でした。雪を見た正は、あなたの家に行くと言いだして、着替えを始めたので、驚きました。
2020年10月23日(金) / 最終更新日時 : 2020年10月28日(水) 森下 辰衛 おたより おたより ⑨ 最近いただきましたおたよりから、いくつかをご紹介します。いろいろな地方のいろいろな方が、いろいろな観点から読んでくださり、本当に感謝しています。深い読みのご感想も多く、こちらも学ばされています。ありがとうございます。
2020年6月30日(火) / 最終更新日時 : 2020年7月4日(土) 森下 辰衛 文学散歩 今日はあなたの百歳の誕生日 前川正さん。ちょうど百年前の1920(大正9)年6月30日、旭川市宮下通り19丁目であなたは生まれました。今日はあなたの100歳の誕生日。なぜあなたはあの場所で、あの時代に生まれたのでしょうか?今その場所を訪ねても、確かな場所は分かりません。何の記念の目印もなく、道行く人もそれを知りません。
2020年6月24日(水) / 最終更新日時 : 2020年7月4日(土) 森下 辰衛 文学散歩 「陽子ちゃん、出ておいで」 わたしたちきょうだいは病院に呼ばれた。家から病院までの一キロ余りの道を、わたしは泣きながら走った。病院に着くと、妹はしきりに寒い寒いといった。六月二十四日のその日はあたたかかった。わたしは、弟の乗ってきた自転車に乗って、湯たんぽを取りに帰った。ペダルを踏む足が、夢の中のように、もどかしいほどのろかった。
2020年6月18日(木) / 最終更新日時 : 2020年7月4日(土) 森下 辰衛 文学散歩 ベッドの中の澄んだ大きな瞳は美しかった 案内された堀田綾子の六畳の病室はクレゾール匂う装飾のない質素な部屋でした。木製のベッドの上に彼女は身を横たえていました。ギプスベッドで寝返りも打てないその人の顔はむくみを帯てはいましたが、澄んだ大きな瞳は美しく印象的でした。 「寝ているだけの病気です」 ベッドの傍らで聴いたその声は澄んでいて、弱々しい響きではありませんでした。
2020年2月4日(火) / 最終更新日時 : 2020年7月4日(土) 森下 辰衛 文学散歩 もうひとつの雪柳 2020年1月28日(火)朝、旭川市の神楽と神居を結ぶ両神橋から見た美瑛川の景色です。この朝、旭川市の最低気温は-18℃と報じられましたが、それは市の中心部でのこと。この場所では-20℃にはなっていたと思われます。空中を砂金が舞っているかのようにキラキラしていましたから、ダイヤモンドダストだったのでしょう。