2020年12月31日(木) / 最終更新日時 : 2021年1月11日(月) 森下 辰衛 幸福な王子 「幸福な王子」を読む ➃ やがて、雪が降ってきました。その後に霜が降りました。通りは銀でできたようになり、たいそう光り輝いておりました。季節は非情なまでの透明な美しさで、いのちを突き刺すような冷たさを送ってきました。出歩く者は誰も彼も毛皮にくるまっているというのに、裸同然になってゆく二人を包むものはありませんでした。かわいそうな小さなツバメはどんどん寒くなってきました。でも、ツバメは王子の元を離れようとはしませんでした。心から王子のことを愛していたからです。
2020年12月26日(土) / 最終更新日時 : 2021年1月11日(月) 森下 辰衛 幸福な王子 「幸福な王子」を読む ② 王子はつばめに言いました。「ずっと向こうの」と。王子には「ずっと向こうの」お針子の女の生活がつぶさに見えるのでした。その貧しさと労苦も手の傷と荒れも、トケイソウ(passion flower=受難の花)の刺繍という仕事の詳細も、その傍に臥す病気の息子が泣きながら「オレンジが食べたい」と訴えていることも。王子はつばめに「ずっと向こう」を指さし、共に見ようと招く者でした。人は「ずっと向こうの」存在など見えもしないし見ようとも思わないものです。