2020年12月28日(月) / 最終更新日時 : 2023年6月28日(水) 森下 辰衛 小説 李(すもも)―前川秀子から綾子への手紙 抄3 三月末、ぬかるんでいた道の雪も少なくなって、馬糞風が吹き始めるころでした。札幌の大学近くの下宿の住所で、あの子から葉書が来ました。大学病院で診てもらった結果を簡単にしるしたあと、「一年遅れの成人のお祝いのようです」と、一行書かれていました。青いインクのいつもと変わらない文字でした。それから、身の回りの片づけをして旭川に帰って来た日、夕食が終わって、お茶を出すとき、柱時計が八回鳴りました。
2020年11月16日(月) / 最終更新日時 : 2023年6月28日(水) 森下 辰衛 小説 李(すもも)― 前川秀子から綾子への手紙 抄 2 珍しく雪の遅い年でした。胸を病む人のいる家にはありがたいことでしたが、でも季節はいつまでも猶予してはくれません。その日、昭和二十八年の十一月十六日、お昼から旭川に初雪が降り始めました。気温も下がって初雪がそのまま根雪になりそうな気配でした。雪を見た正は、あなたの家に行くと言いだして、着替えを始めたので、驚きました。
2020年2月22日(土) / 最終更新日時 : 2023年6月28日(水) 森下 辰衛 小説 オムニ・バス ④ 四 幼稚園のころ、虫歯がたくさんあって、私は町の歯医者に通っていた。アルマイトのデコボコのお椀で脱脂粉乳のミルクが出る給食のあと、幼稚園が終わると、祖母が迎えに来て、町へ行くバスに乗せてくれた。バスは川の流れに沿っ […]