見失った“人間のふるさと”を探しに~オンライン講演会『母』

   三浦綾子『母』の第一章の題は「ふるさと」。勿論、主人公セキの生まれ育ったふるさと秋田大館の近郊のことです。でも、この小説全体の題が『小林多喜二の母』でなく『母』であるように、第一章の題も「セキのふるさと」でなく「ふるさと」です。作品全体が普遍的かつ本質的な「母とは何か」を書こうとしたように、第一章はセキのふるさとを描くと共に、「人間にとってふるさととは何か」を描こうとしているのです。
   この第一章には、沢山の人間の“ふるさと”が出て来ます。例えばそれは、セキの一番古い根源的な記憶である“淋しさ”です。“淋しいということ”。それも、人間の大事な、根源的なふるさとです。人には淋しさがはじめから与えられていて、そこで生まれて、そこから歩み出すものではないでしょうか。なのに、淋しさを忘れてしまって生きている私たちがいるかも知れませんね。
   そして、家族を知り、語ること、歌うこと、働くこと、学ぶこと、愛すること、涙すること、人間の温かさや貧しさ、多くのことを、セキは学びますが、その一つ一つも人間であることの“ふるさと”であったのだと思います。
   そして、セキは、そんな“ふるさと”の中で生まれて、養われながら、彼女自身がやがて小林家に嫁ぎ、時には“ふるさと”を壊され奪われながらも、彼女自身が子どもたちの一番温かい“ふるさと”そのものになってゆくのでした。そして、その歩みは、最後にはもう一つの“ふるさと”に辿りついて行くものでもありました。
   私たちが忘れてしまっている、あるいは見失ってしまっている、人間の“ふるさと”を、この『母』第一章で学び、見つけてゆきたいと思います。

    オンライン講演会『母』➀~人間のふるさと(第一章「ふるさと」)

   は、4月9日(土)14:00~15:30 で、参加費は1000円、オンラインzoomで開催されます。この機会に、zoomに挑戦してみましょう。分からない方は、周りの方に、あるいは私たちスタッフに、頼ってみてください。
   お申し込みは、gospelerpine@yahoo.co.jp(松下さん)まで。見逃し配信(youtube)で見ることも、後日DVDを購入することもできます。

このブログを書いた人

森下 辰衛
森下 辰衛三浦綾子読書会代表/三浦綾子記念文学館特別研究員
 1962年岡山県生まれ。1992年から2006年3月まで福岡女学院短大および大学で日本の近代文学やキリスト教文学などを講義。2001年より九州各地で三浦綾子読書会を主宰、2011年秋より同代表。
 2006年、家族とともに『氷点』の舞台旭川市神楽に移住し、三浦綾子文学館特別研究員となる。2007年、教授の椅子を捨て大学を退職して以来、研究と共に日本中を駆け回りながら三浦綾子の心を伝える講演、読書会活動を行なっている。
 著書に『「氷点」解凍』(小学館)、『塩狩峠』の続編小説『雪柳』(私家版)、編著監修に『三浦綾子366のことば』『水野源三精選詩集』(いずれも日本基督教団出版局)がある。NHKラジオ深夜便明日への言葉、テレビライフラインなどに出演。