旭川G7 ③ エチケット
G3 エチケット
近所にあるホームセンター、ホーマック。私はときどきそこに行く。平凡な日常生活がひろがる空間。いがいと好きな場所である。鍋やスリッパ、ふとんやカーテン、家電も、材木も、みんなある。ホーマックの中を歩いていると、いろんなアイデアが頭にうかんで楽しくなる。ちょっとした工夫ひとつで、うさぎ小屋も御殿になる。どうしても買う必要があるものなんてたいしてないのに、見ているだけで、どんどん時間がすぎていく。
ところが、残念なことに、私はにおいに酔いやすい。ホーマックの中のゴム製品や塗料のせいだと思うのだが、滞在時間が15分を超えると、だんだん気持ちが悪くなってくる。調子にのって長居をすると、頭がくらくらして吐き気までしてくるから、口元を手でおさえ、あわてて店をとび出していくという結果になる。
だから、そうなる前に、ちゃんと腕時計を見なければ……。ウルトラマンだって、3分間のカラータイマーが鳴りはじめたら、怪獣との戦いに適当にけりをつけ、さわやかに自分の星に帰っていくではないか。
その日、私はホーマックに入ろうとしていた。ホーマックの入り口は二段階あって、どちらも自動扉だが、まず、第一の扉。そこを進むと、手の消毒液がおいてあり、自転車のかごやトイレットペーパーなどがおいてある。そこから五、六歩あるくと、こんどは第二の扉があって、そこから先が本格的な店である。
その日、私は、ちょうど第一の扉を通過したところであった。そして私の前では、ひとりのジイが、第二の扉を通過して、店の中に入っていった……。ところがジイは、なにを思ったのか急に立ち止まり、すばやく体を回転させると、こんどはこちらに向かって歩きだした。そして、第二の扉の敷居をまたぐと、くるっと背中を店の外に向け、ブッ、ブブブッ……。屁をひった。ちょうど私はそこにいた。消毒液のすぐそばで、思わず口元をおさえた私であった。臭くはなかった。ただ、プッと笑いがこぼれてしまった。感心な人がいるものだ。なんというエチケット……。一方、ジイは、そんな私の感動には目もとめず、ささっと、さわやかな足どりで店の中に歩いていった……。出物腫れもの所きらわず。こらえきれずに、店の中でこっそりやっている人もいるだろう。なのに、わざわざ一歩出るなんて……。私には、とても真似できない。
このブログを書いた人

- 1963年福岡県生まれ。子どものころは歌やお絵描きが大好きだった。世界のみんなと友だちになりたくて言語学を学んだが学問に挫折し、87年、24歳でクリスチャンになる。その後、同じ大学の先輩で学生時代には“こんな人だけは絶対いやだ”と思っていた森下辰衛とばったり出会い、92年に結婚。2006年から北海道旭川市に住む。旭川のパンとスイーツが大好き。4人のユニークな娘がいる。2016年12月、童話集『天国への列車』(ミツイパブリッシング)を刊行。
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