2020年6月17日(水) / 最終更新日時 : 2020年7月6日(月) 森下 みかん 小説 旭川G7 ⑤ 名前 「あ、ゆうこちゃん!」 そのジイは、私を見るなり、そう言った。私はそのとき、図書館のソファでくつろいでいたが、はっとおどろいて顔を上げた。その顔に、ジイはぐっと自分の顔を近づけて、私よりももっとおどろいた表情で、「ゆうこちゃんかい?」 と話しかける。なつかしさとうれしさでいっぱいになったその顔に、「あ、ちがいますけど」とこたえる私。それでもジイはあきらめない。「いやあ、そっくりやあ。ゆうこちゃんそっくりやあ」
2020年6月3日(水) / 最終更新日時 : 2020年7月6日(月) 森下 みかん 小説 旭川G7 ④ 一円玉 前の人の財布から、ポーンと一円玉がとび出して、床に落ち、ころころところがっていったのを見たのだった。私は使命感にかられてしまった。なんとしてでも自分が拾ってあげなくては、と思ったのだ。すぐに拾えるはずだった。さっと拾って「はい、どうぞ」と、手わたしてあげられるはずだった。ところが一円玉は倒れもせず、とまりもせず、ころがりつづけた。そしてついに、お菓子売り場のほうまで行ってしまった。 「あれっ、待ってー」